この前子供向けの小説を書いていて、世界征服について迷った。
はじめは適当に、世界征服か世界滅亡を企む敵キャラを主人公たちが倒す話にしよう~と思って書き始めたんだけど、いざ敵キャラを出す段になって、なんで世界征服したいのか全然決めてなかったことに気付いてしまった。
なぜ世界征服したいのか。
考えてみれば、僕、29年間生きてきたけど、一度も本気で世界征服したいと思ったことない。そりゃあ中学のときは将来の夢の紙に世界征服って書いたりもしたけど、これは幼稚園児が将来の夢に宇宙飛行士と書くようなもんで、そんなに征服したいわけでもなかった。
なんで世界征服したいのかわからないので、どうにもキャラが固まらない。
そんなわけで、面接してみることにした。
以下の感じで。
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職種:世界征服/世界滅亡推進業務
期間:原稿用紙230まで
定員:若干名
時給:要相談。社会保険完備。成果によって報酬有。
備考:子供向け小説の悪役キャラのお仕事です。アットホーム、明るく楽しい職場です。経験者歓迎。やる気のある人募集。
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世界征服業ってわりと人気あるのか、結構応募者はあった。
それでそれぞれに志望動機を訊いてみたんだけど、なんかピンとくるのがない。
やっぱり多いのが、「人間が憎いので人間を滅亡させたいです」ってタイプ。
もちろん、「どうして人間が憎いの?」って訊くんだけど、どうもピンとこない。
まず地球環境を愛する悪役さんたち。
でも、「人間は自然を壊し、生態系を破壊する。人間は悪だ!」って言われても、なんかピンとこない。
エコロジーを気にするあまりに人間憎しになった系って、なんか陳腐なんだよな。現実にも多すぎるからだろうか。就活本にでも載ってんじゃねえの? っていうくらいありふれている。そういうテンプレ人材が欲しいとこもあるんだろうけど、僕んとことは合わないなと。
次にトラウマを抱えなさる悪役さんたち。
「過去に人間に酷いことをされた! 人間なんか滅ぼしてやる!」
そこはもちろん、「どんな酷いことされたの?」って訊くわけなんだけど、「身内を殺された」「迫害された」とかこれもわりと似たり寄ったり。
エコロジーな悪役たちと違って、このタイプは描きようによっては、きちんと厚みを出せると思うんだよね。ていうかエコロジーな方たちの動機に説得力を持たせようと思ったらグリーンピースの冊子でも添付しなくちゃいけない。
でも原稿用紙の分量が分量だし、そんな暇ないんだよなぁ。それに過去のトラウマ話聞いてても、正直あんま面白くないというか。
飲み会とかで、「ちょっと俺、世界滅亡させようかと思って」「え、どうしたん? 何かあったの?」ってなったときに、「俺、十年前に子供人間に殺されてさぁ」とか言われたら、あ、そうなんだ、大変だったんだなぁ、としか言えないじゃん。
俺としてはこう、盛り上がりたいんだ。「世界滅亡さしてやるぜ! 人間とか大嫌いでよ! 昔っからの夢だったんだ! さよなら人類!」みたいにこられたら、「おう! 乾杯!」って感じになるし、そういう酒を飲みたい。
でもなんかこう、ズーンとなっちゃうような感じの方が多くて、んー、なんかいまいちだなーと。
次に、人間が憎いわけじゃないけど人間は愚かなので以下略の悪役さんたち。
「人間は下等生物なので、我らが支配しなければいけない/殺して構わない!」
んー、なんかこれも就活本そのままじゃねーっていう感じがしてなあ。
トラウマ話で暗くなるわけでもないし、子供向けとしていい気はするんだけど、
「以前はどこにお勤めでした?」「ドラえもんのび太と鉄人兵団です」「ドラえもんのび太と魔界大冒険です」「ドラえもんのび太の日本誕生です」「あ、もういいです。わかりましたわかりました」みたいな感じで、なんかこう。
なんかキュンとこない。俺も世界征服したいしたい!ってなる子がいない。
もっと違う子いないの、っていう。
そんなわけで選考は難航を極めた。なんかいまいちピンとこない。
世界征服系の名悪役といえば特務の青二才ことムスカさんだけど、「どうして世界征服したいの?」って訊いても、「ラピュタの復活こそ人類の夢だからだ」ってしか答えないだろうし。
つまり舞台設定と密接に関わってないと魅力生まれなくない? ということであって。 でも舞台決めちゃってるし進行決めちゃってるし枚数余裕ないし。そもそも若干名募集なので部下とか軍隊とかあげられないことに気づいて。
「あ、世界征服って一人でできますか」って言ったら、「できるかんなもん!」「偉そうにしくさってそんなことすら考えてなかったんかい!」「帰らせてもらうわ!」と大ブーイング。
そんなわけでみんなほとんど帰っちゃったので、最終的に残っててくれた山羊さんに依頼しました。
「あのう、すみません。一人で世界征服できますか」って訊いたら、「何を言っている? 征服などせずとも既に世界は我が手中にあるのだが」って答えてくれたので、あ、そうか、そうだよね、気は力だよね、ということで決定。
わりと最後まで引っ張ってもらいました。完成させれたのは山羊さんのおかげです。ありがとう山羊さん。